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ラグビー観戦の帰り、難波の旭屋に寄った。以前読書日記に書いた「パニック・裸の王様」を読み返して、前回以上に開高健に強く惹かれた僕は「輝ける闇」と「夏の闇」を買ったのだった。 新刊のコーナーに立ち寄ると、グリコ森永事件という文字が目に飛び込んできた。グリコ森永事件! 事件当時僕は中学生で、甲子園のライトスタンドで「グリコの犯人・エ・ガ・ワ」の野次コールにも参加していたし、強烈な記憶となって残っている。この野次は青酸菓子を置いた疑いの濃い「ビデオの男」が巨人の帽子を被っていたことに由来するものである。この事件では犯人グループからマスコミ各社に人を食ったような挑戦状が届き、すっかり感化されたみんなが謎解きに熱中した。三菱銀行北畠事件の猟銃立てこもり事件の時もも小学2年生ながらテレビの生中継に釘づけとなったが、杳として行方の知れない犯人がこの関西のどこかにいるという親近感が僕にグリコ森永事件をより身近に感じさせた。毒入り菓子をばらまくぞという脅迫以来、グリコや森永製品が撤去されて買えないという直接被害も蒙った。本書もあわせてレジに持っていったのは当然である。 本書は2007年3月に週刊朝日に連載された記事をもとに書き下ろされたものだ。グリコ森永事件に関しては新潮社から一橋文哉の「闇に消えた怪人」がすでに出版されている。既読のそちらと読みくらべるのも楽しみのひとつだった。 一橋本に登場しない人物を森下氏は真犯人だとしている。荒唐無稽な推理ではなく、説得力十分な推理だ。しかし、森下氏の本書は一橋本を否定するものではなく、犯人グループの素性、犯行動機の背景についてはむしろ補完するような内容になっている。平成4年の被疑者グループの一斉取り調べも事実だ。 一橋氏との差異に注目した理由はグリコ森永事件への興味からだけではない。僕は週刊朝日に連載されているのを知っていたがそれらを読んではおらず、内容を一橋説の完全否定だと思っていた。それにはちゃんと理由がある。一橋氏は『「赤報隊」の正体』(新潮社)で朝日新聞阪神支局襲撃事件について書き、グリコ森永事件ともつながりがある闇社会の住人を犯人グループとし、朝日が標的になり、しかも被害者が撃たれた記者でなければならなかった事情にも肉薄している。当の朝日は一橋氏の本を「あれはフィクションだから」と一蹴しているようだが、本書ははからずも一橋本の信憑性を増す結果を招いている。まだなんとでも否定できるにせよ、本書の記事の連載、出版にあたっては朝日の内部で軋轢があったのではないだろうか。 大学時代、僕は京都に住んでいた。散髪屋で髪を切ってもらっていると、刑事がキツネ目の男を探して聞き込みにやってきたことがあった。刑事は俳優の矢崎滋を引き合いに出していた。犯人が挑戦状に使った紙を購入した文具店はアルバイト先のすぐ近くにあり、何度か買い物をしたことがある。犯人が挑戦状をコピーした百万遍のコピーセンターは利用したことはないが、奇妙に豪奢な普請の建物で、コピー屋じゃないみたい、と訝しく思っていた。一橋本によると京都闇社会の面々が集う隠し部屋のサロンがあるとのことだが、あの建物ならそれも納得できる。それらを思い出しながら、朝の4時まで一気に本書を読み、あらためて昭和最後の大事件だったなァ、と感懐した。 一橋文哉の「闇に消えた怪人」と併せて読むことをお勧めする一冊である。 |
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