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zoom RSS 弛緩と緊張

<<   作成日時 : 2016/06/06 21:30   >>

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画像 マラソンや駅伝中継の視聴率が概ね好調だと聞く。

 その理由は弛緩と緊張の適度なバランスにあるのではないか、と僕は考えている。有力選手が先頭集団から放されるとか給水ポイントで転んでしまう、あるいは40キロを過ぎてもまだ優勝者の行方がわからないようなデッドヒートが繰り広げられている、といったスリリングな場面もままあるとはいえ、テレビは黙々と走るランナーを映しっぱなしにし、ときおり近くの観光名所やランドタワーの画面が挿入されるという具合に、安閑としている。選手には申し訳ないが、マラソン中継は、テレビの前にいる側にとってはヒーリング音楽を聴いているかのようなリズムだ。自然、ランナー以外の、脇に映り込む光景に目がいく。バイクの後部座席に跨ってテレビカメラを担ぐクルーを見て、

 「乗り物酔いしてゲロを吐いたりしないのだろうか」

 と思う。また、

 「沿道のテレビに映る場所で下半身をポロリンする集団とかがいればおもしろいのに」

 などと奇矯な想像力をふくらませたりもする。そんなときに聞こえてくる、マラソンとは直接関係のない、選手のエピソードを語る増田明美さんの声が実に心地いい。ウケる場を心得ている、とつくづく思う。

 これが競歩だとちょっとリズムが狂う。オルゴールにアレンジしたロックを聴くような感覚だ。サイクルロードレースは日本でもっと人気が出てもいいのにと常々思っているけれど、今ひとつマイナーな存在に留まっているのは、マラソンや駅伝のリズムに慣れた人たちにしてみればスピードが速すぎ、テープの早回しを聴くみたいに落ち着かないからではないか。

 マラソンや駅伝に漂うのんびりした空気は大相撲中継にも共通している。1回だけの仕切りで取組をさっさと進めればあっというまに終わるのだが、観客にとっては相撲観戦における取組の「間」も楽しみの1つである。力士というのは、眺めているうちに心が和んでくる縁起物みたいな存在だ。取組のあいだの穏やかな時の流れに身を任せて恍惚とした心境へ至っている観客は、力士と同様にじわじわと緊張感を高め、制限時間一杯の仕切り前に期待感を最大にふくらませる。最後に塩を取りに来たときにユニークな所作をする力士を見て館内がどっと沸く光景を見るにつけ、国技館のお客さんは楽しんでいるなァ、と思う。また、テレビ桟敷のこちら側は、時間前の仕切りのあいだ、土俵下の検査役を見て、

 「桐山親方って百人一首に描かれている坊主みたい」

 とか、向正面の解説、元舛田山の千賀ノ浦親方が映ったときに、

 「若村麻由美の死んだ旦那によう似てるわ」

 などと呟いたりする。さらには桟敷席や升席の前のほうにいる“夜の世界のお姉さん”の着物姿を吟味したり。たまに、そこに有名人を発見することもある。

 時間がゆっくりと流れるのはプロ野球も同じだ。主婦のプロ野球ファンは家事をしながらテレビ観戦するという人が大半、と推測する。大事件が勃発したかのような実況アナウンサーの喧しい声、あるいはテレビの前にいる家族がワッと声を挙げるのを聴いて、どうしたどうした、と輪に加わる人が多いと思う。以前、僕はプロ野球観戦に凝って、プレーボールから観られるときに必ずスコアブックを手元に置いた時期があったが、ご飯を食べながらスコアをつけることは十分に可能だった。主婦に限らず、男でもずっと試合に集中しているわけではなく、途中で新聞や雑誌を手に取るとか風呂に入るとか、別の行動をしている人が多いはずだ。

 1球ごとの間合いによって、野球も、先に記したマラソンや相撲と同様、弛緩と緊張が交互に訪れる。日本における野球人気の根強さはここにある、と僕は考える。サッカーのようないつチャンスが来るかまったく予期できない、忙しいスポーツが野球人気を完全に凌駕するところまでいかないのは、休息がハーフタイムにしかないことに起因するのではないか。フットボール系の、プレーの途切れる場面が少ないスポーツで、試合中に席を立って売店へ買い物に行ったり、スマホをいじることのほうへ熱中している人を横目で見ると、ちゃんと試合を観ろよ、と不快に感じる人が多いと思う。サッカーファンのあいだから「ライト層をどう取り込むか」という声をちょくちょく耳にするけれども、日本のスポーツ観戦文化におけるライト層は、集中なんかせずに“ながら観戦”を好む人ではないだろうか。ここにちょっと意識の差が存在するかもしれない。

 以上のように考えると、2つの仮説を立てることができる。本来、日本人は休憩を頻繁に挟みながらときどき集中するのが性分に合うという説。もう1つは、ふだんあくせくしているのだから、スポーツを観戦するときくらいはのんびりと飲み食いしながら観たいという欲求が強い、という説。

 はたして、どちらだろうか。僕自身、まだ結論を下しかねている。




付記1 僕が現場へもっとも足を運ぶスポーツはラグビーで、試合のあいだはプレーに集中している。ここへ書いたタイプには必ずしも当てはまらないが、今回のエッセイは穏やかな一般論として記した。

付記2 野球場へ足を運んだ際、家にいるときの“ながら観戦”の癖が出るのが一番危ない。ファールボールが観客に直撃して重大事故になるのは、硬球という凶器が飛び交っていることを忘れてプレーから目を離しているケースである。ラジオ中継の解説で今は阪神の監督をしている金本知憲氏も以前、「レフトを守っていてスタンドを見ると、危ないなァっていう人、ホントいるんですよ」と話していた。


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