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zoom RSS 五郎丸→「涙器」……………(しりとりエッセイ)

<<   作成日時 : 2016/06/10 21:30   >>

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画像 涙器。聞き慣れない言葉である。明鏡国語辞典には載っていないが、広辞苑には「涙を分泌する涙腺と、それを鼻腔にまで導く涙道との総称」とある。ここではタイトルが涙腺だと思って読んでいただきたい。涙腺とすると、タイトルをしりとりでつなぐ手前、末尾が「ん」で終わってしまって都合が悪いのである。

 年をとると涙腺がもろくなる、とよく言う。先日、30代半ばの人が自分のことをそんなふうに言うのを聞いて、まだ若いやん、と笑ってしまったけれど、科学的に実証されていることではないらしい。一般的にそう信じられているだけの話である。ただ、若いころは自分本位にしか物事を考えられなかったのが、年を重ねるうちに他者の心持ちに思いを馳せるようになって涙もろくなる、ということはあるかもしれない。

 3、4年前だったか、意外に涙もろいと自覚したことがある。「アルプスの少女ハイジ」を、別の番組を予約録画するときにテレビ画面の番組表で発見し、ついでに録画して見たときのこと。一緒に暮らしていたハイジがフランクフルトで生活することになり、山に1人残されたおじいさんが、パンの値段をめぐって麓の村で商店主とひと悶着を起こしていた。店主と揉めた一因には、ハイジがいなくなった淋しさからくる、ささくれだった心情があった。そして「おじいさんにとってハイジは大きな存在になっていたのでした」というナレーションが流れてきたとき、目の前が涙で霞んでいった。

 たぶん、これは「アルプスの少女ハイジ」を最初に見た幼少期を懐かしむ気持ちが混じって出た涙だと思う。無垢な時代は二度と戻ってこないというノスタルジーが無意識的に作用したのではないか。ここで、あのころはオナニーなんかするようになるとはカケラも思わなかったよ――とオチをつけるのは昔、エロギャグ4コママンガで一世を風靡した相原コージさんのテクニックである。

 「アルプスの少女ハイジ」に涙したのは、程度でいえば“中”。“大”はどうなるか、抑制がまるっきりはたらかず、滂沱として溢れ出した涙が足元にポタポタと落ちているような状態である。ただ、さすがに“大”を、18歳を過ぎてから経験することは少ない。今かぞえてみると、4回だけである。そのうち1回は、イタリア映画「ニューシネマパラダイス」を観たときだが、虚構のストーリーに接してこのレベルの涙を流すことはめったにない。

 僕は今40代だけれども、涙腺がもろくなったと感じるのは、ホロリとくるところまでいかない、ごくごく微量の涙が出やすくなっていることである。傍目には、潤むまでにも達していないかもしれない。笑いすぎて涙が出てきた――の2段階前くらいの涙が、人と話していてうれしくなったりしたとき、眼球の下辺にチョロっと出ることがままある。僕よりももっと年上の人が、年をとると小便の切れが悪くなる分、終わったあとにチョビッとだけ出てくることがある、と言うけれど、その感覚に近いかもしれない。

 中学の同級生に、涙の出やすいことにかけては人後に落ちない男の子がいた。彼は授業で先生に当てられて答えに詰まると、見る見るうちに目にいっぱいの涙を溜めた。そのたびに悪ガキが、それくらいで泣くなよ、とあてこすりを言っていたが、男たるもの、涙を人前で見せるべからずという不文律というか風潮みたいなものは、依然として社会に存在する。彼はその後、他者が経験しない苦労を背負ったのではないだろうか。でも、ふだんの彼は決して泣き虫ではなく、むしろ芯が強いくらいだった。緊張すると涙が出る性分は、感情と体の反応が直結している子供の泣きのようなものだったとも考えられ、年齢を重ねるにつれて自然治癒した可能性もある。あるいは、この年代で一生分の涙を流したので、今ごろは何があっても絶対に泣かない“鉄の男”になっているかもしれない。


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