ワンダーランド・なぎさ亭

アクセスカウンタ

zoom RSS 金玉→「街」……………(しりとりエッセイ)

<<   作成日時 : 2016/07/16 21:30   >>

ナイス ブログ気持玉 3 / トラックバック 0 / コメント 0

画像 コンビニや外食チェーンの店が1軒もない街。今の時代にそんな場所は存在しないと思っていたら、関西の都心からさほど離れていない土地にあった。それはJR福知山線の篠山口駅から東へ約6キロ、篠山城跡の北側に広がる篠山の旧市街である。篠山口は大阪、神戸のベッドタウンの北のはてともいうべき所で、駅前やJRに沿って通る国道176号線、舞鶴若狭自動車道の丹南篠山口インターを下りたあたりは、コンビニや外食チェーンのけばけばしい看板がすぐに視界へ飛び込んでくる。のどかな盆地のそこかしこに立ちこめる開発の匂いが目障りといえなくもないが、旧市街に入ると、そこには40年くらい前に時間を巻き戻したかのような商店街と、江戸時代に建てられた武家屋敷、大正時代に建設された旧篠山町役場の洋館(現在は大正ロマン館として保存され、観光名所になっている)といった由緒ある建物が同居する、趣ある街並みが広がっている。

 一昨年の夏、この地を訪れる機会があった。旧市街をぶらつきながら、コンビニと外食チェーンがない街は心が落ち着く、としみじみ思った。定食屋へ入ってお昼を食べ、甘味とわずかな酸味が絶妙の地元産の米飯を堪能、勘定を済ませて店を出るとき、女将が僕に、お気をつけて、と言った。女将はそれまで常連客と世間話に花を咲かせていた。

画像 自由な商いをしている店はいい。まれに、コンビニ店員のおばさんに話好きの人がいるけれども、コンビニで立ち話はできない。レジへ来た次の客が怒ってしまうだろう。これが個人商店であれば、次の客のほうが「お話し中のところ、申し訳ありませんが」みたいな顔をし、人によってはこちらに目礼をくれたり、言葉を交わしたり、というようなことも珍しくはないのだが。

 篠山の旧市街を1時間ほど歩き回ったあと、しばらく休憩しようと思った僕は、商工会館の1階にある畳敷きのスペースへ足を向けた。そこにはおばあさんが2人いて、寝そべりながら雑談していた。彼女たちは入ってきた僕の姿を見るや、起き直って居ずまいを正した。そのまま楽にしてもらっていいですよ、と声をかけたが、彼女たちが再び横になることはなかった。年を重ねてはいても男性を前にしたときのたしなみを意識する彼女たちが、なんだか可愛らしく思えた。

 東日本大震災の被災地に関連するニュースで、家に閉じこもりがちなお年寄りが集まる場所としてコンビニを活用してはどうかという提案を目にしたことがある。正直、アホかと思った。ヤンキーみたいに駐車スペースの縁石に腰かけてお喋りしろというのか。長くとどまっていいスペースを提供するのなら話は別だ。しかし、便利であることと長い時間を過ごしてもいい場所という2つの要素が相反しているのが、コンビニという空間なのである。

 篠山の旧市街を歩きながら、僕は昔日の、昭和40年代くらいの光景を想像した。都会の流行とこの地をつなぐ橋渡しをしていたのは本屋やレコード店で、学校が終わる時間帯にはそれらの店に中高生が押し寄せていたに違いない。また、休みの日にはバスで篠山口へ出て、そこから列車に乗って大阪や神戸に買い物に行くということもあっただろう。でも、おおかたはこの街中で事が足りた……。

 僕はたいていの用がその近辺で足りてしまうという商店街が好きだ。これが大阪のような都会になると色欲まで満たせる所があって、十三や京橋が該当する。変な気を起こしそうになるのであまり長居しないように心がけているが、十三あたりを歩くと、奇妙ともいえる光景に興趣を覚えることもしばしばである。近くに校舎を構える府内有数の進学校、北野高校のカップルは総じてお行儀がよく、肉体のつながりを感じさせない、純な雰囲気を醸し出している。だが、その横を、両腕にフーゾク嬢をはべらせた男がすれ違っていったりするのだ。片や健全な男女交際、青春の清々しい息吹が伝わってくる一方で、「女2人連れてこれから何すんねん? 2組つなぎ合わせたタンポンで綱引きでもさせるんか」の世界。この交錯がおもしろい。

 そういえば、十三でこんな光景を見たことがある。雑居ビルから車椅子の中年男性と、車椅子を押す若い男性、そして派手なメイクを施し、ミニタイトのスカートを穿いた30歳くらいの女性が出てきて、3人でホテル街へ向かっていった。女性はフーゾク嬢、若い男性はフーゾクの店員、中年男性は客に違いない。談笑する3人は朗らかな顔をしていて、まるでこれから一緒に公園へお弁当を食べに行くかのようだった。

 フーゾク嬢とおぼしき女の子と、かなりとうのたった高齢の男性が手をつないで歩くのにも出くわしたことがある。男性は足が衰えていてゆっくりとしか歩くことができず、女の子は介助しているみたいに見えた。足は衰えても股間についているモノはまだまだ元気なのか、と思っていたら、後ろから2人を追い越していったフーゾク嬢と若い男の客の会話が漏れ聞こえてきた。フーゾクのお嬢さんが言う。

 「あのおじいさん、さっき階段下りてるの見て、可愛いって思った」

 「知ってるん?」

 「知らんけど」

 若い男が訊いた「知ってるん?」の真意は、客として相手をしたことがあるのか、ということだろう。この会話を聞いた僕は、今どきの20歳そこそこの女の子がおじいさんをつかまえて可愛いなんて言わないぞ、と思った。世間一般の尺度でいえば倫理的に正しくない世界なのだろうが、こういう温かい光景に出会えるのは十三ならでは、という気がした。

 梅田のグランフロントみたいな気取った新しい街が好きになれない。客を値踏みし、眼鏡にかなわぬ者を入口で追い返していた昔のディスコに似た排除の匂いがする。その点、道頓堀界隈、ミナミにはなんでもござれといった闇鍋の佇まいがまだ色濃く残っている。

 2月上旬、春節にあたる時期、ミナミは中国からの観光客で溢れ返っていた。ここはいったいどこの国なんだろうといった雰囲気で、もはや日本ではなく、東南アジアの混沌とした都市を思い起こさせた。しかし、ミナミには、そのカオスがとてつもなくふさわしいように感じられた。


にほんブログ村

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 3
ナイス ナイス
面白い

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
金玉→「街」……………(しりとりエッセイ) ワンダーランド・なぎさ亭/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる