ワンダーランド・なぎさ亭

アクセスカウンタ

zoom RSS 街→「ちゃん付け」……………(しりとりエッセイ)

<<   作成日時 : 2016/07/26 21:30   >>

ナイス ブログ気持玉 3 / トラックバック 0 / コメント 0

画像 〈アキコという名の女性が仲間うちで“アッコ”と呼ばれていたりする。メグミは“メグ”で、シンイチローは“シン”。僕はどうもこういった短縮名称、ってやつが苦手だ。ある程度うちとけた仲になっても、なかなか短縮できない。照れてしまう。〉

 泉麻人さんのエッセイ『チトフナの男』(「地下鉄の友」講談社文庫所収)に以上のような文章があって、おおいに共感した。僕も照れてしまうタチなのである。

 短縮名称ではないが、こんな経験がある。大学時代の友人に、片岡洋子という名前の女の子がいた。愛嬌があっていつも明るい彼女は、男女を問わず、みんなからヨーコちゃんと呼ばれていた。僕はそのグループに遅れて加わったという関係だった。照れくさくはあるものの、そろそろ仲間に入れたかなというころ、勇気を奮って、かつさりげなく、会話の中でヨーコちゃんと口にしてみた。すると、即座に横槍が入った。

 「何がヨーコちゃんじゃ」

 その声を発した彼にとっては、僕はまだ軌道を別にする異分子という位置づけだったのだろう。

 だが、こういうのははっきりいって傷つく。以後、まわりの人間がヨーコちゃんと気さくに呼ぶ中、僕は彼女のことを片岡さんと読んだ。卒業前に飲んだとき、彼女は、僕がいつまでも苗字で呼ぶのがよそよそしくて淋しかった、と洩らした。距離が近くなったと判断した僕が初めてヨーコちゃんと呼んでみたとき、違和感を唱える横槍が入ったことを、彼女はすっかり忘れているようだった。

 この経験がトラウマになったわけではないが、下の名前で他人を呼ぶのが苦手だ。やはり照れが先に立つ。しかし、下の名前をちゃん付けて呼びたいという欲求はある。ささやかな葛藤とでもいおうか。

 また、些細な嗜好ではあるけれど、僕は苗字をちゃん付けするのが好きではない。佐藤ちゃん、田中ちゃん……どこか業界ふうでもあるし、苗字で呼ぶよそよそしさと親しげな「ちゃん」が並ぶことに居心地の悪さを感じる。だから、浜のつく苗字の人のあだ名がハマちゃんになったりするのは好みではない。あくまで自身の経験だが、僕のことを苗字(または苗字の一部)にちゃん付けして呼んだ人に親友は1人もいなかった。親友といえる存在は、むしろ呼び捨てが多かった。

 ふと思ったのだけれど、キャバクラやフーゾクといった女の子が接待してくれるサービス業へ通い詰める人の中には、女の子をちゃん付けで呼びたいという願望の強い人が多いのではないだろうか。あの手の商売で本名の人はおらず、みんな下の名前ふうの源氏名である。こっちは客という立場で少しは強い態度に出ることができるので、ちゃん付けに遠慮はいらない(ただのオバハンが外見とは似ても似つかぬジュリアやローラだったりすることもときどきあるが)。フーゾクの愛好者の中には、さらに自分を解放して、奥さんや恋人の前では決して発しないような甘い声で「あゆちゃ〜ん」などと言いながら乳首に吸いつくのが快感……という御仁もいることだろう。

 ちゃん付けではなく、さん付けだったけれども、通っていたフィットネスクラブの女性スタッフが、あるときから僕のことを下の名前で呼び始めた。しかし、最初のころは照れが混じっていて、名前を呼ぶときだけ、明らかに声のトーンが下がっていた。下の名前で呼んで大丈夫かな、でも私はそうしたい――といった逡巡が如実に表われていて、それを感知した僕は、彼女を抱きしめてサバ折りにしたいくらいに愛おしく思った。もっとも、実際に行動へ移せばセクハラ扱いされていたに違いない。


にほんブログ村

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 3
ナイス ナイス
面白い

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
街→「ちゃん付け」……………(しりとりエッセイ) ワンダーランド・なぎさ亭/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる