宇能鴻一郎流官能野球?

画像 1年に1度くらい、駅売りの大阪スポーツ(以下大スポ)を買いたくなることがある。関東では東京スポーツ、九州では九州スポーツとして売られているこの新聞は、ウソみたいな内容の記事と意表をつく一面の見出しで広く知られている。貴乃花親方がまだ現役で貴花田というシコ名だった時代、竜興山という幕内力士が病気で急逝した。その時の大スポの一面の見出しは、デカデカと『貴花田急死』。えっ、と思って購入し、よくよく眺めたところ、

 『貴花田竜興山急死ショック

 と、一応ウソはついていないものの、通販商品であれば公取委からお叱りを受けるに違いない、ふざけた見出しをつけていた。

 話はそれるが、世界に例を見ない、日本独自の新聞販売方法である宅配システムは、便利な反面、人間の精神を堕落させているような気がする。朝起きたら新聞が届いている、読む。受動的なのだ。メディアに対する警戒心が薄れ、リテラシーが育たない一因になっているのではないだろうか。キオスクやコンビニに立ち寄り、財布からお金を出して情報を積極的に得ようとする姿勢で読むのと、家にいながらにして届けられるのを読むのでは、記事に対する心構えが違ってくるように思うのだ。もっとも、スポーツ紙や夕刊紙は、それ以前の、どうでもいいような記事が多いけれども。

 大スポは大判だが、発売されるのはタブロイド版の夕刊紙と同じ時間帯である。前日おこなわれた試合の内容を報じても、すでに発売されている朝刊のあとを追うような内容では新鮮味に欠ける。そのせいか、中身はといえばヨタ話的な話題が中心である。勝手な憶測ばっかりやん、という呟きが洩れることは日常茶飯事。読んでいくうち、大スポの記者に必要なのは何事にもとらわれないイマジネーション力であることを痛感する。

 この日僕が買った大スポに、巨人の原辰徳監督についての記事があった。WBCの優勝監督にもなって名将の評価が定着した原さんは大の読書家なのだそうだ。勝負の世界に生きる男だけあって、戦国の世を描いた歴史小説を愛読するとのことだが、最近は官能小説、しかも女の子の独白調の特異な文体がコアなファンを惹きつける、宇能鴻一郎にハマっていると記されていた。官能と戦術上のひらめきのあいだに、何か共通点でも見出したのだろうか(宇能ちゃん、若い頃は一応芥川賞をもらったりもしてるんだけど……)。

 
 1アウト1塁で、ランナーは足の速い鈴木尚広。バッターはテクニシャンの木村拓也。

 ふつうに送りバントじゃつまんないわあ

 と監督の私。初球から、いきなりヒットエンドランのサインを出したの。

 そしたら拓也が、バントの構えをして寝かせていたバットを

 ピン

 と立てて、右方向へ、思いっきり振り回したんです。

 打球はライト前へのゴロヒット。ファンブルしたボールをライトがまさぐっているのを見た尚広は

 我慢できない。イッちゃえ

 と、うめくようにして叫ぶと、3塁を蹴って、

 ドバッ

 とホームへ生還しちゃったんです。

 あまりにも事がうまく運んだ先制点に、私はすっかり舞い上がってしまったんです。


 ……なんてね。

 快楽を追求する野球――ひょっとしたら、いちばん強いかも知れない。

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