テーマ:読書

未来のスタジアムを考えるにも好適な本~「2020狂騒の東京オリンピック」(吉野次郎著・日経BP社)

 僕は市場原理主義の過度な拡大に警戒心を抱いていて、一定の枠内にとどめておくべきだと考えている人間である。具体例を挙げれば、年間3万匹もの犬や猫が殺処分されている事実によってペット産業は“倫理的に”破綻している、と思う。また、どこもかしこも全国展開のチェーン店で溢れ返っている状況は、雇用を促進しているという意見もあろうが、大方は半ばブラ…
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いけず返しが心地よし~「京都ぎらい」(井上章一著・朝日新書)

 京都人がさす京都の範囲がきわめて限定されていることは僕も承知している。以前、モーニング娘にいたころの中澤裕子さんが、京都出身であることをささやかながらアピールしていた時期があった。それをテレビでたまたま見た僕は、控えめにしておいたほうがいいよ、と思った。中澤さんは福知山出身。京都市内に住む人は、福知山出身者が京都人を名乗ることを許さな…
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一級の資料、奇跡のバランス~「増補版 時刻表昭和史」(宮脇俊三著・角川ソフィア文庫)

 昭和8年、国鉄(現JR)渋谷駅の小荷物窓口の所に老いた秋田犬がいつも生気なく横臥していた。駅員や乗客から食べ物をもらっていたこの犬こそ、銅像にもなり、今に存在が伝えられるハチ公である。宮脇俊三さんは幼少のころ、飼い主が急死したあとも渋谷駅へ主人を迎えに行く習性が変わらなかったハチ公の姿をしょっちゅう見ていた。  〈(前略)ハチ公…
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ハーフタイムのコーヒーブレイク(118)~藤島大さんの「人類のために。」を読みながら

 藤島大さんのラグビーエッセー選集、「人類のためだ。」(鉄筆)の中に収められた『「暗黙の絶対」を捨てるな』の最後の一文に目を奪われた。藤島さんはラグビー精神を「性善説を前提とする絶対の価値」と記したうえで、こう書いていた。  〈社会生活における「精神」の押しつけは息苦しい。しかしスポーツという非日常になら「暗黙の絶対」はあってよい…
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三島由紀夫『実感的スポーツ論』を読んで思ったこと

 先日、玉木正之さんが編まれた「彼らの奇蹟 傑作スポーツアンソロジー」(新潮文庫)の書評を当サイトへ発表した。その中に収められている、三島由紀夫が1964年に書いた『実感的スポーツ論』について、僕は、氏にしては心やさしい牧歌的な筆致がほの見えるのはスポーツが持つ力にほかならないのだ、と書いた。ここではまず、そのあたりを詳しく見ていきたい…
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スポーツを読む醍醐味が凝縮した1冊~「彼らの奇蹟 傑作スポーツアンソロジー」(玉木正之編・新潮文庫)

 《優勝者のための国旗掲揚で国歌吹奏をとりやめようというブランデージ(註・当時のIOC会長)提案に私は賛成である。(略)/私は以前、日本人に希薄な民族意識、祖国意識をとり戻すのにオリンピックは良き機会であるようなことを書いたことがあるが、誤りであったと自戒している。/民族意識も結構ではあるが、その以前に、もっと大切なもの、すなわち、真の…
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ハーフタイムのコーヒーブレイク(116)

 「彼らの奇蹟 傑作スポーツアンソロジー」(玉木正之編・新潮文庫)を読んだ。いずれ書評を記すので詳細を述べるのはその機会に譲るが、スポーツの本質をとらえた評論あり、肉体が心を支配し、心が肉体を指揮せんとする双方向の関係を描き切った重厚なノンフィクションあり……文芸の粋に陶酔せずにはいられない作品が連続していた。昨今の「ビジネスに役立つナ…
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「国立競技場の100年 神宮外苑から見る日本の近代スポーツ」(後藤健生著・ミネルヴァ書房)

 本書のあとがきで、著者の後藤健生さんが、こう記しておられる。国立競技場の通史のような本を読みたかったが、そのような本がなく、ならば自分で書くしかなかった、と。そこで新書版くらいの簡単な通史を、と考えて出版社の人間に何人か打診してみた。そのときは色よい返事がもらえなかったものの、ミネルヴァ書房の編集者との出会いにより、著者の企画は陽の目…
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中学1年の少女を描く精緻さが光る~「ミーナの行進」(小川洋子著・中公文庫)

 主人公の朋子は、わけあって中学1年生の1年間、親元を離れて飲料会社を経営する叔父の大邸宅で暮らすことになった。「ミーナの行進」はそこで過ごす日々、とくに1歳年下の病弱な従妹ミーナとの友情を描いた小説である。  やさしく平易な文章でありながらきわめて精緻。読後の率直な感想だった。体の弱いミーナを通学時に背中へ乗せて運ぶ役目を担うペ…
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毒舌の王道~「紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす」(武田砂鉄著・朝日出版社)

 中学生のころ、僕は、現在は芸能界の一線を退かれている上岡龍太郎さんに心酔していた。彼が出演するテレビやラジオを、それこそむさぼるように見聞きしたものである。なぜ惹かれたのか。それは上岡さんの、決してありきたりな角度では物事を見ない発言の数々に魅力を感じたからだ。今、咄嗟に思い出したのは、以下のような発言である。  「大阪はひった…
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秋のバス停にて、「暑い道」~『わかれの船』(宮本輝編・光文社文庫)

 宮本輝さんの小説、とりわけ短編は落語である。情緒に富み、思わず頬を緩む箇所があって、何事も角度を変えて見れば、別の場所が光輝いて映ることを教えてくれる。人生が、雪や宝石の結晶のように思えてくるのだ。  10月12日、大学ラグビーを観に京都へ出かけた折、松ヶ崎で市バスを待ちながら、短編アンソロジー『わかれの船』(宮本輝編・光文社文…
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性を通じて知る昔日の庶民生活~「夜這いの民俗学・夜這いの性愛論」(赤松啓介著・ちくま学芸文庫)

 日本には男性器、女性器をかたどった偶像を崇拝する風習が各地に存在している。かねてから僕は、このことを不思議に感じていた。その多くは現在、安産の神、子宝の神とされているが、だからといって男性器や女性器をかたどったものを拝むのは飛躍しすぎ、正確にいえば元を辿りすぎではないか、と思っていたのである。  しかし、本書を読んでそうした疑問…
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大人になって読み返したい星新一~「天国からの道」(星新一著・新潮文庫)

 巻末の解説で新井素子さんが星新一さんについて、こんなことを書いている。〈星さんのお話の中には、何かとっても“深い”ものがある。勿論、子供の頃読んだって、それで充分面白いんだけれど、大人になってから、あるいは、中年になってから読んで、初めて、隠された面白さが判るようなものが。〉  同感である。僕は本書を読んで、星さんのショートショ…
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本書自体が見事なお手本~「縦横無尽の文章レッスン」(村田喜代子著・朝日文庫)

 世に文章の書き方を指南する本は数多ある。しかし、本書はその中でも白眉といえるのではないだろうか。  作家の村田喜代子さんが下関の山の手にある大学で受け持った文章講座の内容を記した本書は、まずテキストに用いた文章の選択がいい。子供の作文に始まり、「2000年間で最大の発明は何か」(ジョン・ブロックマン編 高橋健次訳・草思社)の中か…
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相撲→「うさぎ亭」……………(しりとりエッセイ)

 『うさぎ亭』と書いても、何のことだが、皆目わからない人も大勢いらっしゃるのではないだろうか。これは村上春樹さんの昔のエッセイ「『うさぎ亭』主人」(新潮文庫「はいほー!」収録)に書かれたメシ屋のことである。当時、村上さんがよくお昼を食べに行っていた店で、メニューは日替り定食とコロッケ定食の2種類しかない。噂によれば、ここの主人は元ヤクザ…
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物書き的良心

 ちょっとやわらかめのラグビーコラム、3本立てで構成される当サイト「ハーフタイムのコーヒーブレイク」№89において、ラグビーの情景を歌ったユーミンのナンバー「ノーサイド」のことを書いたとき、関連する酒井順子さんのエッセイの文章を引用した。そこに、付記として僕はこう書き添えた。  〈酒井順子さんを著述業の世界へ誘ったのは泉麻人さんだ…
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プライベート→「トロッコ」……………(しりとりエッセイ)

 芥川龍之介の小説に「トロッコ」という作品がある。新潮文庫の「蜘蛛の糸・杜子春」の中に収録されている9ページばかりの掌編だが、中学1年のとき、国語の授業で習って以来、僕はこの作品を愛読している。近くの鉄道工事現場に置いてあるトロッコに興味津々の少年がある日、作業員がトロッコを押すのを手伝い、ついでに乗せてもらう。かねてからの念願が叶って…
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宮脇俊三さんを読むうちに思い出した種村直樹さんのこと

 思春期にさしかかったころ、親と一緒に外出することを嫌った経験を、多くの人が持っていると思う。反抗期といってしまえばそれまでだが、そこには、自立心が芽生える中、外とのかかわりにおいて、自己と親を含めた家族よりも、自己という個人を優先させたがる心理が存在するのではないだろうか。だからこそ、この年代は友達関係がすべてであり、ここで抱えた深い…
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人間を描く宿命~「歓声から遠く離れて―悲運のアスリートたち―」(中村計著・新潮文庫)

 「甲子園が割れた日―松井秀喜5連続敬遠の真実―」「佐賀北の夏―甲子園史上最大の逆転劇―」に続き、新潮文庫から中村計さんの3冊目の本「歓声から遠く離れて―悲運のアスリートたち―」が刊行された。  「甲子園が割れた日」は、中村さんが描く人間肖像の繊巧さに惹かれた。とりわけ素晴らしかったのが、松井のあとを打っていた5番打者の描写だった…
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野球における知性を描く傑作~「マネーボール」(マイケル・ルイス著/中山宥訳[完全版]・早川書房)

 貧乏球団がなぜ金満球団に負けない優秀な成績を残せるのか。その秘密は他球団が思いもよらなかったデータを駆使して、野球というゲームに勝つ近道を開拓したことにあった。そして、独自開発の「勝利の方程式」に当てはまる優秀な選手であるにもかかわらず、他球団が雑魚扱いしている選手を、安く買い集めてきた。ハヤカワノンフィクション文庫から出た本書は、資…
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帯の浅野温子さんに導かれ、椎名誠さんを読んで昭和軽薄体の文章も高潔だ!と思うのであった

 書棚にあった椎名誠さんの「日本細末端真実紀行」を取り出した瞬間、僕は「やややっ!」と叫んでしまった。帯つきである。写真を見ればおわかりのように、そこにはまだ20代の浅野温子さんがいた。ワンレングスのロングヘアーを靡かせる浅野温子さんがあまりにカッコいいものだから、巷の、とりたててカッコよくもない女たちまでみんな同じ髪型にしちゃってバブ…
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底抜けにおかしくも示唆に富むロックなノリ~「謎の独立国家ソマリランド」(高野秀行著・本の雑誌社)

 ソマリアと聞いて我々日本人が連想するのは、内戦が絶えない、大飢饉に襲われた悲惨な国、といったところであろう。あるいは、自衛隊の派遣論議で話題になったソマリア海峡に出没する海賊か。ところが、日本におけるイメージがほとんど最悪といっていい彼の地の一角に、国際社会には認められていないものの、平和を維持する民主主義の独立国家が存在するらしい。…
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宮本輝さんのエッセイ集、「二十歳の火影」にほの見えるもの

 宮本輝さんのエッセイ集、「二十歳の火影」の中に、『雨やどり』というタイトルのエッセイがある。氏が広告代理店に勤めていたころ、雨に降られて地下街へ入り、中の本屋で文芸誌を手にとった。巻頭の短編小説がおもしろくなくて、次に大衆小説誌を読む。それらはたしかにおもしろかったけれども、三流のコピーライターである私の目を白黒させるようなとんでもな…
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自然と人間の共生を教唆する名文~「ハチはなぜ大量死したのか」(ローワン・ジェイコブセン著 文春文庫)

 先日、しりとりエッセイに「ミツバチ」というタイトルで一文を記した。実際に文章を書いたのは約半年前だったが、ブログ記事として掲載する日を前に、関連書籍として一級品にランクされる本に出会った。文章を一から書き直すだけのゆとりある時間を持てず、ほぞを噛む思いがしたが、その一級品の本、「ハチはなぜ大量死したのか」について、ここで記すことにする…
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モノマネの元ネタを観る感じ~「蜂蜜パイ」(「神の子どもたちはみな踊る」所収 村上春樹著・新潮文庫)

 このあいだ、新聞に「あなたの好きな村上春樹(筆者注・以下、敬称略)の作品は何?」というアンケートの結果と、そこに寄せられた主だった声が、記事として掲載されていた。こういう企画を読むと当然、いちばん好きな村上作品は何だろうか、ということに思いを馳せる。ドッペルゲンゲル、つまり、もう1人の自分――影という言葉は村上作品のキーワードの1つだ…
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在りし日の国鉄と豊かな旅情と時代の変遷と~「時刻表2万キロ」(宮脇俊三著・河出文庫)

 日本ノンフィクション賞、新評賞を受賞した本書は、昭和の名随筆に違いない。耳に入ってくる、あるいは目に触れる評判から、そんなふうに認識していた。  ところが、どういうわけか未読であった。最近、鉄道がブームである。平成の名随筆家の地位を確立しつつある酒井順子さんが鉄道紀行文に手を染めているし、インターネットで検索をかければ、鉄道旅行…
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強い言葉の快さ――文芸の魅力に満ちていた山際淳司さんの文章

 先日UPした「神様じゃなくて人間が決めたことじゃないか」を書こうと思い立ったとき、すぐに、奇想天外なアイデアでエベレストの頂上征服を目論んだモーリス・ウィルソンの逸話を盛り込もう、と考えた。ウィルソンについて書かれていたのは、故・山際淳司さんの「みんな山が大好きだった」(中公文庫)。さっそく書棚から本を取り出して頁をめくったが、該当箇…
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問題作と謳いつつも読後感が清涼なのはなぜ?~「モンスター」(百田尚樹著・幻冬舎文庫)

 「なんだかんだ言って外見より中身が大事。ハートだよ」  女性から好きな異性のタイプを訊かれて、こんなふうに答えた経験のある男は多いと思う。しかし、あえて言わせてもらおう。偽善だ。目の前の女性によく思われたくて、恰好をつけているだけだ。本書を読むと、それがよくわかるのではないだろうか。よしんば、本当に中身だと考えていたとしても、ど…
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丹念な青春小説~「プリズムの夏」(関口尚著・集英社文庫)

 医師であり、すぐれたエッセイストでもある海原純子さんが巻末に、他者の追随を許さないような素晴らしい解説をお書きになっている。重複する部分がどうしても出てきてしまうのだが、読書エッセイという感じの力を抜いた気分でなら、自分もこの小説について何かを記そう、という気になった。  青春とは恥ずかしい時代なのだ、と僕は思う。たとえば、大学…
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大切なことはすべて、この小説の中に詰まっている~「永遠の0(ゼロ)」(百田尚樹著・講談社文庫)

 文学の目的は、と問われたとき、宮本輝さんは「人間にとって幸福とは何か、を考えること」だと答えた。故・児玉清さんは「日常生活の中ではめったに出逢えない感動的な出来事や素晴らしい人間と出逢うため」と、この本の巻末に寄せた解説文に記している。児玉さんは読書、とりわけ小説を読むことの効用を述べておられるのだが、文学の目的と解釈して差し支えない…
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